ゴーン 被告の妻のキャロルさん、トランプ大統領に窮状を訴える

ゴーン被告が一度目に東京拘置所から保釈された後、わたしたちはマスコミを通じて頻繁に彼の近況について見聞きすることになりました。

ゴーン被告が彼の財力とは似つかわしくない「普通のマンション」に住み、新宿御苑を家族と仲良く散歩し、ホテルの高級レストランで食事を取る、などのニュースが流れました。

しかしゴーン被告の二度目の保釈以来現在まで、日本でゴーン被告の近況を耳にすることは全くありません。ゴーン被告がマンションから一軒家に移ったことぐらいでしょうか。

しかし海外では、ゴーン被告の妻、キャロルさんが活発な発言を続けています。それは日本におけるゴーン被告の沈黙とは「真逆」と言っていいほどのものです。

ここではキャロルさんがイギリスのBBC放送に応じたインタビューを中心に、彼女の公の発言について紹介するとともに、その国際世論、ゴーン被告の公判への影響について考えてみましょう。

キャロルさんの現在の微妙な立場

ゴーン被告の二人目の妻、キャロルさんは現在52歳です。2016年にキャロルさんにとっても二度目の結婚を果たしたわずか2年後に夫であるゴーン被告のスキャンダルが発覚しました。

キャロルさんは、ゴーン被告と同じくレバノン出身。長らくアメリカに住み、ニューヨークをベースにして中東から着想を得たファッションビジネスを手がけてきた生粋のビジネスウーマンです。

ところが現在のキャロルさんは、これまでのキャリアウーマンとしての人生を払拭して、自分が何よりも家庭の主婦として生きてきたことを強調します。

「わたしは3人の子供たちを育て上げた主婦にすぎません。それなのに(日本のメディアは)わたしのことを共謀者に仕立て上げようとしています。」

これはとても興味深い「豹変」です。この発言はゴーン被告のスキャンダルにおけるキャロルさん自身の微妙な立場を意識した発言だと考えるべきでしょう。

ゴーン 被告の妻キャロルさん、トランプ大統領に窮状を訴える

ゴーン被告は自動車業界において世界的成功を手中に収めました。しかし現在では「かつての日産の経営者」として、日本において複数の容疑にかけられています。

2年前からゴーン被告の妻となったキャロルさんは、それまで夫が社長だった「ビューティーヨット」という会社の代表を受け継ぎました。この会社はタックスヘブンとして知られるイギリス領ヴァージン諸島に所在の会社です。

今回ゴーン被告から数億円のお金がこの会社に流れたのではないかと言われています。

そのような事実が明らかとなった後2019年4月の早朝に警察が東京にあるゴーン夫妻のアパートを再度家宅捜査しました。この時ゴーン被告は再度身柄を拘束されました。

キャロルさんは、早朝の5時15分に20人の警官が自宅に入ってくる、というのは涙なしには語ることのできないエピソードだったと強調します。

「それはわたしたちを怖がらせ、辱めるためのものだった」とキャロルさんはBBCに説明しました。シャワーを浴びたあと婦人警官から「タオルを渡された。」

ゴーン被告の二度目の保釈後、夫妻はお互いとの接見を禁じられました。そしてキャロルさん自身、検察当局の聞き取り調査を受けました。

それ以後もキャロルさんは、欧米諸国のメディアに対する働きかけをあきらめません。

キャロルさんは日本の検察当局による聞き取り調査について、「夫の立場を弱体化するために、わたしをスキャンダルの一部に巻き込むための策略にすぎない」と説明しています。

日本でG20が開催される前夜には、メディアを通じてトランプ大統領に夫の救済を求めました。

「今月末にG20で主要先進国の指導者が集まる。だからわたしはトランプ大統領が安倍首相に対して公正な条件のもとで裁判が行われるよう、頼んでもらいたい、と思っています。」

「(わたしが直接)夫と話せるようにとりはかってもらいたい、ゴーン被告の推定無罪も尊重してもらいたい」と訴えました。

その一方でキャロルさんはあくまでも自分で判断して行動していることを強調しています。

「(夫の日本人)弁護士たちからは、わたしが何を言っても公判では夫に不利に働いてしまうから、何も言わないようにと口封じをされました。でもわたしは夫を取り返したい。彼と一緒に戦いたい。わたしは彼が無実だと信じている」

キャロルさんによれば、ゴーン被告が逮捕されたのは「彼がルノーによる日産の買収を計画していたからだ。夫を排除するための陰謀だった」と答えています。「そして夫が決して公正な裁判を受けることはなない」とも。

キャロルさんは夫が無実だと強く主張する一方で、ゴーン被告の容疑については沈黙を保っています。

この点でキャロルさんの態度は日本におけるゴーン被告の態度と一致します。

以上のことから、キャロルさんはゴーン被告の事件については沈黙を保っている一方で、国際世論に向けて日本の司法が公正ではないことを強く強調していることがわかります。

フランスではゴーン被告の家宅捜査が始まる

一方フランスでも、ゴーン被告に対する(日本とは)別の捜査が始まっています。2016年10月にゴーン被告はベルサイユ宮殿でキャロルさんと結婚式を執り行いました。

緑色のドレスを着たキャロルさんがゴーン被告と微笑んでいる写真は日本でもおなじみのものとなりましたが、それはベルサイユ宮殿の結婚式の時のものでした。

ゴーン被告に対する新たな容疑とは、ルノーがヴェルサイユ宮殿と交わした芸術支援協定を乱用して、ゴーン被告は自分の私的イベントである結婚式会場として、ヴェルサイユ宮殿を無償に借りうけたというもの。

もし自分で支払っていればその費用は50000ユーロ(およそ600万円)に上った、ということです。

これ以外に別の疑いも上がっています。とりわけ昨年3月末に交わされた数百万ユーロにのぼる契約書に対してフランスの警察当局は疑いの目を向けています。

この契約書はルノーからオマーンの会社に自動車を販売したことを示すものですが、それは日本のマスコミでも報道されたのと同じ自動車輸入、販売会社だということです。

同じようなお金の流れがすでに日産からも報告されており、それは日産ではなくゴーン被告が私的に流用するための資金だったのではないか、との容疑があります。

ゴーン被告のであるキャロルさんも一連のお金の動きに関わっていたのでしょうか。

最近では日本の検察当局の要請に応じて、スイスもゴーン被告のお金について調査を始めたそうです。

世界をまたにかけた金の動きの倫理的是非については、今後裁判の中で明らかになっていくでしょう。

 

 

日本でのあの事件発覚さえなかったら・・・・

今回の事件の結果、ルノーと日産の関係は大きく変わりました。ルノーのスタッフで日産に出向していたフランス人の中には、プロジェクトがなくなってしまったため、本国に帰ることになってしまった人もいました。

彼らは、自国ではゴーン被告ほどの要人が検察当局からこのような対応を受けることはまずないために、いまさらのように日本とフランスのギャップに気づいてショックを受けました。

確かに、日本でのスキャンダルが発覚せずに、ゴーン被告に対する嫌疑がフランス国内、つまりルノーに関するものだけだった場合、ここまで信用と実績を失うことはなかったでしょう。

フランスでは、シラク元大統領を始め、国家の要人による金銭スキャンダルに対して、厳しいお咎めがなされたことがないからです。

政治家や著名人を逮捕するか、否か、それが日本とフランスの司法の違いである、と言えるほど、この点は日本とフランスで異なる点です。

このようなフランスをめぐる状況も、当事者が事件を受け入れることを難しくしているのでしょう。

最後に

最後にキャロルさんのメディアへの発言の動機について整理してみましょう。

まず第一に、かつてのセレブが現在の窮状に対する特別扱いを求めている、という解釈が可能です。

少なくとも日産内においてはかつてのフランスの絶対君主のように振舞っていたゴーン夫妻が今更「わたしたちは傷ついた、苦しい」といくら強調したとしても一般の人々からのシンパシーを受けるのは難しいのではないでしょうか。

次に、自分が主婦である、と強調するキャロルさんは自身の事件への関与を否定しているようにも思えます。

彼女は3人の子供を生み育てた、と強調することで、あたかもゴーン氏との再婚前の自分の人生についてより強調している印象を与えます。

その点では自分の保身のために発言していると取れます。

最後に日本の司法に対する批判について。

これは欧米の国際世論の合意を取り付けることができる唯一のポイントです。

キャロルさんはゴーン被告のいわゆる「人質司法」を問題視し、推定無罪の原則に反していると指摘します。「非人間的であり残酷だ」と強調し続けています。

これについては欧米のメディアも同じ態度です。

例えばフランスの日曜紙ジュルナル・デュ・ディマンシュは「自白第一主義」を問題視し、「強く問題を指摘したいのは『まず拘束し次に罪状を決める』ことだ」と批判しています。

その上で「ゴーン被告はその論理をはね返すことができず、その結果自分を守るすべが無かった」とゴーン被告寄りの見方を示しました。

この見方が正しいかどうかは、今後裁判が始まることによって明らかになるでしょう。

少なくともゴーン被告の視点から見た場合、日本の司法に対する国際世論を自分たちの味方につけることによって、裁判を少しでも自分たちに有利に運ぼうとする可能性は否定できません。

これは一種のイメージ戦略とも考えられます。ゴーン被告がyou tubeで日本人に対して自分がお金のみに執着した悪者ではない、と強調したのと同じ類のものです。

その意味ではキャロルさんの言葉とは裏腹に、キャロルさんの行動の背後にはゴーン被告の弁護士が控えているでしょう。

日本でゴーン被告がどのように裁かれるのかは今後の裁判を待つしかありません。

一方、キャロルさんの発言は現在の日本の司法をめぐる国際世論の批判的な見解と一致するため、人権をめぐる日本の好ましくないイメージを助長する側面があります。

その結果、国際世論が今後の日本の司法のあり方に何らかの影響を与える可能性を否定することはできません。

https://www.bbc.com/news/business-4860407

https://www.jiji.com/sp/v4?id=20190308CarlosGhosn0003