あなたもこれで恋愛上手になれるー『星の王子さま』 の名言から読み解くフランスの恋愛ー

アントワーヌ・ド・サン=テグジュペリ(D’Antoine de Saint-Exupéry, 1900 年―1944年)が書いた『星の王子さま』は、フランスの文学作品として世界で絶大な人気を誇っています。

『星の王子さま』は、聖書の次に世界中で一番読まれているストーリーです。もちろん日本でも老若男女、多くの人が『星の王子さま』のファンです。

『星の王子さま』には友情、旅行、愛、空間、危険など様々なテーマが盛り込まれています。そして『星の王子さま』はフランス的恋愛に関する名言の宝庫でもあります。

ここでは『星の王子さま』が伝えるフランス的恋愛観について、3つの視点からご紹介しましょう。

1)恋愛とは手間と時間によって育まれるもの

2)魅惑するとは隠すこと

3)なぜ本当に重要なものは目で見えないのか

『星の王子さま』のあらすじ

『星の王子さま』は27章から構成された短いお話です。基本は子供のために書かれた童話ですが、大人が読んでも意味深いストーリーです。

主人公は、まだ子供で、可愛らしい王子様。自分の惑星を出て地球に来ましたが、また帰っていくという話です。

フランス語ではle petit prince, 英語ではthe little prince、日本語では『星の王子さま』です。フランス語や英語の「小さい」とは単に小さいのではなく可愛い、の意が込められています。

ここでは簡単に粗筋を紹介します。

操縦していた飛行機のエンジンの故障によって、パイロットはサハラ砂漠に着陸します。彼はそこで、羊を書いて欲しい、と言う星の王子さまに出会います。

パイロットはとても驚き、この子供が誰で、どこから来たのか知りたくなります。でも星の王子さまはパイロットの質問に答えません。

しかし日が経つに連れて、パイロットは美しいブロンドの髪を持つこの少年の話の全容を次第に理解していきます。

星の王子さまはアステロイドB612という惑星に住んでおり、そこには3つの火山があり、バオバブと面倒臭いバラも生息していることも・・・・。ある朝、星の王子さまは自分の星を抜け出し、アフリカ大陸に到着し蛇と話します。

その後地球を一回りして、狐と出会います。その狐から友達を作るためには「(相手を自分に)なつかせないといけない」と教わります。

地球への旅を続ける中で、星の王子さまは、次第に周囲の大人たちが「存在」の本質的意味について忘れてしまっていることに気づきます。

8日目に、パイロットと小さな王子さまが砂漠の中で井戸を探し回っていると、そのまま日が暮れてしまいました。そして朝日が登る頃、二人はやっと井戸を見つけます。

それはあと1日で、星の王子さまがお国の惑星を去ってちょうど1年が経つという時でした。星の王子さまはその時自分の惑星に戻ることを決心します。

自分の惑星に戻るために、星の王子さまは毒を持った蛇に噛んでもらって、あまりにも重たい自分の体から自由になろうとします。

星の王子さまは言います。「僕は死んだように見えるけどそれは本当ではないからね。」

6年後、パイロットは無事帰還し、星の王子さまが地球に戻ってくるのを待っています。空の星を眺めて、パイロットは星の王子さまが、そのうちのどれかの星にいると考え、星の王子様について思いを巡らします。

では次に『星の王子さま』の三つの名言を挙げて、フランス的恋愛観について見ていきましょう。

1)恋愛とは手間と時間によって育まれるもの

君がバラのために費やした時間に比例して、バラは(君にとって)とても重要な存在になるんだよ。(21章)

君は君がなつかせた物や人に対して永久に責任を持たなくちゃならないんだ。(21章)

愛を育むためには時間がかかります。一方で現代に生きる私たちは時間が砂時計の砂のようにどんどん無くなっていくことを感じています。

ITの発達により、多くの情報が伝播し、それらが刻々と変化すると、国際的な経済競争が激化し、技術革新のサイクルも早くなり、私たちは即座にそれらの変化についていかなくてはなりません。

そんな社会では、恋愛を育むために時間をかける、ということがますます難しくなってきます。

こんな社会だからこそ、手早く出会って、手早く関係を作って行きたい、と思うのではないでしょうか。とにかく立ち止まっている、ということがないのですから。

サン・テグジュベリは、私たちに忘れがちなことを教えてくれます。恋愛は、無為に思える手間や時間をかけることによって膨らんでいきます。

そのような時間を繰り返すことによってのみ、それまでほかの物や人と同様で、特別な存在でなかった物、人が、あなたにとって唯一無為の特別な存在になっていきます。

この名言を初めて口にしたのは狐です。彼は「なつかせて」「仲良くなっていく」時間と言っています。

サン=テグジュペリ自身は私たちよりも半世紀以上も前に生きた人なので、現代人のような社会について知らなかっただろう、と思われるかもしれません。

ところがそうでもないのです。サン=テグジュペリは人生における時間の速さについて、強く意識していたからこそ、このようなことを強く感じたのでしょう。

なぜならサン=テグジュペリは旅人だったからです。それもただの旅人ではなく、長距離を旅する飛行士だったからです。

フランスがナチスドイツに占領された後、サン=テグジュペリはアメリカへ亡命します。ところがやはりフランスのことが気になり、ヨーロッパへ戻ってきます。

そして自由フランス(ドイツへの抵抗運動を行った政治グループ)に加担し、占領されたフランスを奪回すべくパイロットになったのです。

サン=テグジュペリは地中海をパイロットとして飛んでいた時、敵国に撃たれて亡くなりました。彼は亡命者、パイロットなどとして、国境を超えて、生涯色々な国を旅しました。

同じところにとどまっている時間、愛する人といる時間は普通の人よりも格段に限られていたからこそ、サン=テグジュペリは恋愛が深まることと時間の長さが比例することを、強く意識したに違いありません。

2)魅惑するとは隠すこと

『星の王子さま』から、エロチシズムのあり方について知ることができます。それは主に24章に書かれています。

この点について甲田純生氏による興味深い解釈を紹介します。

パイロットと星の王子さまは広大な砂漠の中で、井戸を探して歩き回ります。

その時星の王子さまは言いました。

「砂漠は美しいね」「砂漠が美しいのは、どこかに井戸を隠しているからだよ・・・」

するとパイロットはハッとしました。小さい頃自分の家にも秘密があったことを思い出したのです。

ただ砂漠の中の井戸と家の中の秘密は、同じ秘密でも異なる秘密です。

砂漠の中の井戸は探してもいいけど、家の中の宝物は探してはいけません。家の中の宝には性的な意味あいが込められているからです。

人間の性が文化の域に達するためには、性は社会的タブーとなる必要があります。「禁止」されることによって、性に対する関心が強まります。

カトリック教のフランスでは、同時に性的に奔放な文学や哲学などの伝統があります。それはもともとカトリック教が子供を持つこと以外の理由で性的行為を禁止したため、性的行為自体が大きな魅力を放つようになったのです。

カトリック教の影響が弱まった現代のフランスでも、性が文化として生き続けています。

例えばフランス人にとってヌードとは、単に服を脱ぐことではありません。

「フランスでは妻は決して裸で夫の前を歩きません。歩いてはいけないのです。そんなことをしたら夫はお昼のランチを買ってくれません。」(Elaine Sciolino, La seduction, 151)

パリのダンスショーでは、暗闇の中女性のダンサーたちがバッキンガム宮殿で女王を護衛する警備隊のようなユニフォームを着用して踊ります。目を凝らしてみると、お尻と胸だけがあらわになっています。

軍服や警官などの制服は社会秩序を象徴しており、エロチシズムからみれば一番遠い存在です。そのような制服に身を包んだダンサーが踊るという、秩序と無秩序が計算し尽くされた演出です。

このダンス・ショーに似たシーンが『星の王子様』にもあります。それは星の王子さまが故郷の惑星で、赤い薔薇に初めて出会うシーンです。

花は緑色の小部屋にこもったきり、いつまでも身支度を終えようとしない・・・・彼女の望みはまばゆいばかりの美しさでデビューすること。

星の王子さまが待ちわびていた後で、やっと赤い薔薇が咲きます。王子さまは思わず叫びました。「あなたはとても綺麗です。」

赤い薔薇は、化粧、すました態度などを通じて相手を素の自分から遠ざけます。禁止のメッセージを送ることによって、逆に星の王子様の関心を惹きつけたのです。

フランス人男女にとって、エロチシズムとは何よりも隠すことから始まります。

3)本当に重要なものはなぜ目に見えないのか

『星の王子様』の中で最も有名な名言の一つは、重要なものは目に見えない、と言うものです。ストーリーの中でこの名言は何度も言葉を変えて出てきます。

目で見えるものは人を盲目にする。心で見つけなくちゃいけない。(15章,21章)

砂漠が美しいのは、どこかに井戸を隠しているからだよ。(23章)

でもね、目は盲目だよ。心で見つけなきゃ。(25章)

重要なものは目に見えない。この言葉は恋愛にも当てはまります。

『星の王子さま』の中で恋愛に関わる場面と言えば、赤い薔薇と星の王子さまの出会いの場面です。ところが、意外なことに、赤い薔薇と星の王子さまの出会いは、まず見かけから始まっています。

星の王子さまは赤い薔薇の美しさにまず心を打たれます。そしてその後、彼女の気まぐれに悩まされることになります。赤い薔薇は見栄っ張りで、すぐ機嫌を損ねるからです。

赤い薔薇「私、風がとても苦手なの。衝立はお持ち?」

星の王子さま「風が苦手だなんて・・・・植物なのにかわいそうだな」「この花は一筋縄ではいかないんだ・・・」(21章)

こうして王子さまは、心の底では赤い薔薇を愛したいと思いながら、にわかには彼女のことが信じられなくなります。些細な言葉をいちいち間に受け、そしてその度にひどく傷つきます。

星の王子さまは次第に、恋愛する男女が言葉を交わし理解しあうことに限界があることに気づきます。あたかもそれは赤い薔薇が美しい容姿を持っていたため、余計難しいものだったかのような印象を与えます。

そんな美しい赤い薔薇との紆余曲折を経て、星の王子さまは、言葉を超えた愛や心について、次第に感じ取っていくのです。

「言葉は誤解の源だ。」(21章)、「花の言葉ではなくて、振る舞いで判断すればよかったのに。・・・つたない駆け引きの裏に、優しさが隠れていることに気づくべきだった。」(21章)

そして地球で、赤い薔薇との関係について反省する中で、重要なものは目に見えないことを確認します。

「僕は経験が足りなかったんだよ。だからどうやって花を愛してあげたらいいか、分からなかったんだ。」(21章)

「これが僕の秘密だよ。至極簡単なことさ。心でしか見えない、ということ。本当に重要なことは目では見えないんだよ。」(21章)

以上の赤い薔薇と星の王子さまのやりとりから、フランス的愛とは目から入って行って、目に見えない貴重なものを見つけるプロセスである、と理解できます。

パイロットも星の王子さまの言葉の真意を理解しました。

僕は彼(星の王子さま)の青白い額や閉じた両目、風にそよぐ髪の房が月光に照らされるのを見て、こう思った。「いま見えているものは外側にすぎない。大切なものは、目に見えない。」(24章)

フランス人は元来見かけが美しいものがとても好きです。美しくないものには関心を持ちません。

星の王子さまも同じです。美しいから赤い薔薇に惹かれたのです。でも星の王子さまは、時間をかけて、外側から内側の重要性へと辿り着きます。

美しいゆえプライドの高い赤い薔薇を、それでも星の王子さまは愛おしく感じ続けています。実際サン・テグジュペリも相当な面食いだったのです。彼の奥さんは大変な美人でしたから。

こうして見ると「大事なものというのはねえ、目には見えないんだよ。」という名言も額面通りに受け取るだけでは不十分ではないか、と思えてきませんか・・・。

まとめ

ここでは3つの名言から、『星の王子さま』に表現されたフランス的な恋愛観について紹介しました。「フランス的恋愛」というのはそれだけで完結してしまうものではありません。

フランス的恋愛とは、そこからもっともっと広くて深い世界へ行くための入り口です。

 

 

 

 

 

 

参考文献 甲田純生 『「星の王子さま」を哲学する』

星の王子さま

 

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