フランスのLGBT―芸術との深〜い関わり

LGBTとは、Lesbian(レズビアン、女性同性愛者)、Gay (ゲイ、男性同性愛者)、Bisexual (バイセクシャル、両性愛者)、Transgender (トランスジェンダー、性別越境者)の頭文字を取ったもので、セクシャル・マイノリティーの総称です。

今回はフランスのLGBTの現状についてご紹介します。芸術活動と深い関係があるのがフランスのLGBTの特徴です。

LGBTについて

LGBTはもともと英語から来たものですが、フランス語でもLGBTとなります。(Lesbiennnes, Gays, Bisexuels, Transgenres)

14世紀にgayというのは「幸せ、楽しい、心配がない」などの意味がありました。gayは1890年代に入ると、性的にゆるい=楽しい、という意味から次第に売春宿を意味するようになりました。

その後英語でもフランス語でもgayは男性の同性愛者を意味するようになりました。

一方1940年代にhomosexuelという言葉も誕生しました。こちらは医学的意味合いが強く、どちらかと言えばgayのほうが言葉として気軽な印象があります。

今日日本やフランスなどではLGBTによって「性はグラデーション」という考え方が一般化しました。

つまり性について考えるとき単なる二項対立のオス、メスではなく、それらの間に横たわる多様なニュアンスを重視するようになったのです。

わたしたちのセクシアリティーは3つの要素で構成されていると言われています。

それらは「体の性」、「心の性」、「好きになる相手の性」で、その組み合わせによって個々人の様々なセクシュアリティーが想定されます。

日本でも近年LGBTは注目を浴びているのはご存知の通りです。

タレントのはるな愛さんやマツコ・デラックスさん、一ノ瀬文香さんなど芸能人の人もカミングアウトしています。

日本政府はいじめ対策として2017年にLGBTの生徒を保護する政策を打ち出しています。

(Tokyo Rainbow Pride 2020から)https://tokyorainbowpride.com/lgbt/

2015年に渋谷区議会ではLGBTを対象として「パートナーシップ証明」の発行が可決されたことは記憶に新しく、それ以来いくつかの市町村でLGBTに対する同様な動きがあります。

しかし現状では日本ではLGBTのパートナーシップについて法的な拘束力はありません。

LGBTの法的認知はパートナーシップから

日本と異なりフランスではLGBTのパートナーシップは法的に認知されています。それがフランスと日本の一番の違いでしょう。

フランスでは1999年からすでに異性間のカップルでもLGBTでも民事連帯契約、いわゆるPACSと呼ばれるパートナーシップや同棲が認められるようになりました。

しかしPACSは結婚ほどの法的保障をもたらすものではありませんでした。

一方フランスの国民議会は2012年に初めて同性婚についての法案を議論しましたが、他のヨーロッパの国々以上に強い反対があったと言われています。

それは従来同性愛を強く禁止するカトリック教会の影響が強いお国柄のせいでもありました。

それでも同性婚はフランス革命以来キリスト教の社会的影響を払拭しようとした左派の伝統をくんだ社会党のオランド大統領のもと2013年に合法化されました。

翌年フランスでは24192の結婚届が提出されましたが、そのうち同性婚は10522件の4、4パーセントに登り、またそのうちの46パーセントはレズビアンの同性婚でした。

フランスでは左翼政権がLGBTの社会的認知を促進

歴史を振り返るとフランスでもLGBTは長い間政府から弾圧されてきました。

それでも最後にLGBTに死刑が執行されたのは1750年のことでした。フランス革命が始まるほぼ50年前のことです。

フランス革命後に制定された立憲君主制国家のもと、公私の区別をわきまえることを前提として私的行為としての同性愛は市民の自由となりました。

この立憲君主制国家は今日につながる市民権の多くを生み出したことで知られています。たとえばユダヤ教などのカトリック教以外のそれまで弾圧されていた宗教の自由もヨーロッパでいち早くこの時点で認められました。

ちなみにこの時離婚の自由も認められました。

LGBTの市民権も「おおっぴらにしない」ということを前提に認められました。

それから再度フランスで同性愛が犯罪となったのは第二次世界体制下親ナチス政権として誕生したヴィシー政権の時代でした。

ヴィシー政権はフランス革命の価値観を否定してそれ以前のいわゆるアンシャンレジームの価値観を復興させようというもので、カトリック教の影響が復活しました。

第二次世界大戦後もLGBTに対する事情はそれほど変わりませんでした。

1960年代にLGBTは公共秩序を乱すものであるとしばしば糾弾されました。

1983年にLGBTなどを除外するいわゆる「良俗」の概念が取り除かれましたが、それもミッテラン大統領率いる社会党政権でした。

同性愛を含めてPACSによってパートナーシップを規定することが一般化するとともに、今度はLGBTに対する社会的偏見が糾弾されるようになっていきました。

そして2013年に社会党の大統領のイニシアティブによって同性婚が合法化されました。

歴史を振り返って見ると、フランス社会におけるLGBTの認知は確実に左翼政権によって推進されました。

フランス社会におけるLGBTの認知とは政治的価値と表裏一体ということです。つまり今日でもLGBTに反対し続ける人(政治的保守派)が存在する、ということです。

日本のようにいつのまにか社会がおしなべて認知していた、ということはありません。そのためにこの問題についていつまでも議論を続ける余地があります。

芸術とLGBT:『アデル、ブルーは熱い色』

日本でもLGBTを取り上げた『おっさんずラブ』などのドラマ、映画が大ヒットしましたが、フランスでも近年LGBTを描いた映画が増えいます。

映画『イブ・サンローラン』はファッションデザイナーのサンローランと彼の恋人の間の愛と別れを描いてヒットしました。

一方レズビアンの愛を描いたフランス映画の代表作の一つとして『アデル、ブルーは熱い色』があります。

この映画は2013年に封切られており、それはフランスで同性愛婚が認められた年でした。

こちらに日本での公開の時の紹介があるので興味があればご覧ください。

この映画はまず長い。3時間も続きます。激しい性的シーンのためにフランスでは12歳未満は禁止、アメリカでは18歳未満は禁止の映画です。

この点が子供にも好かれる淡いプラトニックラブを描いた『おっさんずラブ』との大きな違いでしょうか。

レズビアンの愛は「特別な友情」(amitié particulière)という言葉で表現されています。

フランス人にとって、友情と愛の間にもグラデーションがあることが感じられます。

この映画の原作はグラフィックノヴェル(漫画)です。

そのようなものが映画化されたものがカンヌ映画祭のパルムドール賞などの栄誉ある映画賞を複数受賞した、というのもこれまでに例をみないことでした。

このフランス映画はいろいろな意味で「型破り」です。

でも芸術の一部と捉えられるところがフランスのLGBT的かもしれません。

LGBTを公表したフランスの有名人

フランスでは同性愛というと芸術家のイメージが強い気がします。小説や映画などでは芸術家の並外れた感性の一部として同性愛が描かれることが頻繁にあります。

イブサン・ローランの例もそうですし、先ほど紹介した映画『アデル』もアデルと画家のエマの間の恋愛と別れを描いているという意味では芸術に深く関係したテーマとなっています。

またLGBTを公表したフランスの有名人は圧倒的に芸術家が多い、というのもLGBT=芸術というイメージを強めています。

男性では、作家のマルセール・プルースト、アンドレ・ジードや哲学者のミッシェル・フーコー、学者のピエール・ボルドューやローラン・バルテなど。女性ではフランソワ・サガン。

フランスにはLGBT=芸術家や学者としてのステータスシンボル、という側面があります。

ここに何よりも芸術を尊ぶフランスのお国柄が反映されています。

しかし現実のフランス社会においては、LGBTは決して芸術家や学者に限られているわけではありません。実際にはLGBTには様々なタイプの人がいるという意味では日本と同じです。

ちなみに日本におけるLGBT人口の割合は8パーセントで、それはAB型の血液を持った人よりも多いのです。

ポピュリズムとLGBT

フランス社会においてLGBTは日本以上に社会的、法的に認知されている存在です。同時に社会や経済の行きづまり感が強まる中、LGBTに対する世間の見方は年々厳しさを増しつつあることもまた事実です。

アメリカではオバマ大統領がLGBTの人権擁護を促進した後、トランプ大統領が彼らの人権をもろに否定するような政策を次々に打ち出しています。

人権を重んじるフランスの現政権がこのような立場を取ることはありえません。

ただ現在フランスには極右政権(国民戦線)を支持する人が多く、ポピュリズムの波が押し寄せています。彼らは移民やマイノリティーに対する差別意識が強いため、LGBTへの差別感情も否定できないでしょう。

最後に

ここではフランスにおけるLGBTの状況について簡単にご紹介しました。

日本とは違ってフランスの歴史を振り返った時カトリック教の影響が強く、それがLGBTの社会的認知に対しても大きな影響を及ぼしていることを指摘しました。

同性婚が合法化した、ということは社会の世俗化を目指したフランス革命の精神がフランス社会に深く根付いたことを示しています。

フランス社会ではLGBTは一筋縄ではいかないテーマです。そこには宗教が絡んでいるため、フランス革命の時代と同様に現代でもカトリック教を大事にしたいフランス人からは反発を受けます。

最後にフランスでは近年庶民にとっては社会、経済的に危機的な状況が続いており、彼らのLGBTに対する差別意識は強まる傾向にあります。

それでも芸術大国フランスでは美しいものを生み出す芸術家に対する社会的尊敬の念が強く、同性愛は彼らのステータスシンボルのようにもみなされています。

芸術というのは人生を豊かにする、というコンセンサスがあるために人々はLGBTの芸術家を個性として受け入れやすいのです。

 

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こんにちは。 フランスやイギリスで10年ほど暮らしました。 現在は東京に住んでいます。 フランスの女性、文化、おしゃれ、ニュースなどの多彩な情報を発信していきます。 どうかよろしくお願いします。