フランス人女性はなぜ結婚すると苗字を変えるのか

日本では結婚した後、妻は普通夫の苗字を名乗ります。

このパターンは結婚して家庭に入る、というのが当たり前の時代には問題なかったかもしれません。しかし日本でも働く女性の数が増えると、結婚して苗字を変えるという行為には不利益が伴うことを意識せざる終えません。

結婚して苗字が変わったことを会社や仕事関係の人に伝えなければならない、関係がある人々に新しい名前を覚えてもらう必要がある、通称として旧姓を使い続けるにしても、戸籍や公的文書を全て新姓に変更しなければならない、などの手間がかかります。

仕事などの場面で通称として旧姓を使用することを選択した女性は、仕事用のハンコと行政上のハンコと二つ用意しなければなりません。

それとは別に、名前は個人のアイデンティティーの拠り所でもあります。

婚姻後男女どちらかの姓に統一しなければならない、という法律があるだけですが、大半の日本人女性は社会慣習に従って夫の姓を採用します。

唯一日本人女性が夫と異なる苗字を名乗ることができるのは、国際結婚をした場合で、戸籍上も夫婦別姓を採用することができます。

ではフランスでは結婚したら妻が夫の苗字を名乗るのでしょうか。

ヨーロッパにおける既婚女性と姓

結論から言えば、日本と同様にフランスでも、結婚したあとは妻が夫の苗字を名乗ることが当たり前とされています。

ヨーロッパ(欧州連合)では、ドイツ、イギリス、オーストリア、フランス、アイルランド、スエーデン、フィンランドなどの国では、夫の名前を採用することが当たり前(85パーセント以上)とされています。

ということは、これら以外のヨーロッパの国々ではそうでもありません。

これらの国々において、法律によって婚姻後妻が夫の苗字を名乗らなくてはならない、と決められているわけではありません。

イギリスでは結婚の際、苗字に関する法律的決まりごとは何もありませんし、既婚カップルに生まれた子供が父親の姓を名乗らなければならないという法律もありません。

スウェーデンやフィンランドなどでは、夫婦どちらかの苗字を採用して、子供にもそれを名乗らせるか、もしくは夫婦はそれぞれそれまでの苗字を保持し、子供にはどちらかの苗字を名乗らせる、となっています。

それでも妻が夫の苗字を名乗るのは、それが社会風習だからです。

これらの既婚女性が夫の苗字を名乗ることが当たり前の国々の中で、唯一フランスのみ2003年まで子供が母親の名前を名乗ることを禁じていました。

現在91パーセントのフランス人の既婚女性が夫の名字を名乗っています。

フランス王政とサリカ法(古代ゲルマンの慣習法)

フランスの結婚と苗字の関係の歴史的期限をたどると、ゲルマン族の風習、サリカ法にたどり着きます。サリカ法によって、中世以来のフランス王国では王位継承権を持つのは男性に限られていました。

イギリスではこのようなことはありませんでした。イギリスには王位継承権を持った女王が存在しましたし、現在も女王が君臨しています。

フランスにはイギリスのような女王はかつて存在したことがありません。女王はあくまでも、男性の王位継承者の配偶者として存在しました。

フランスは意外に男社会です。それが現在にも続いています。

イギリスではサッチャー首相、メイ首相など女性の国家元首が複数登場しましたが、それはイギリスでは国家元首として女王を認める、という文化の名残と言えます。

ドイツにもメルケル首相が誕生しました。しかしフランスにはまだ女性大統領が誕生していません。

たまたま国民投票でこれまで大統領に選ばれるほどの女性候補がいなかった、とも考えられますが、フランスのサリカ法の影響で、女性が国家元首になりにくい現実があるとも考えられるのではないでしょうか。

フランス人女性は苗字を変えることについてどう思っているの?

これまで、大半のフランス人の既婚女性が夫の姓を名乗っており、その割合はヨーロッパでダントツであることを指摘しました。

ではフランス人女性は結婚して夫の苗字を変えるという社会風習について、どう思っているのでしょうか。

フランス人女性は夫の苗字を名乗りたい、と考えていますが、その理由は離婚率が高くなったからです。

フランスでは、夫の苗字を名乗ることと離婚率の上昇には大きな因果関係があるのです。

フランスの民法に従えば、もちろん離婚した女性は元夫の苗字を名乗る必要はありません。

それなのに離婚したフランス人女性が元夫の名字を名乗りたがるのは、何よりも自分の子供と同じ苗字でい続けたいからです。

子供のいないフランス人女性が離婚した後、元夫の苗字を名乗り続ける割合は20パーセント未満ですが、子供のいるフランス人女性の40パーセント以上が離婚した後も元夫の名字を名乗り続けています。

夫以外の名字を子供に名乗らせる、という法律改正にヨーロッパで一番時間のかかった国はフランスでした。

それでも2002年から2005年にかけて、フランスでも子供は父母のどちらかの名字を名乗れるように、民法が改正されました。

しかし現実には、夫の名字を名乗るという社会風習があまりにも強く残っているため、法律改正後子供が母親の名字を名乗る、というのはほとんどありません。この点で日本と大きく異なります。

その結果離婚後大半のフランス人女性が元夫の名字を名乗り続けるのは子供のため、と言えます。

それでも多くのフランス人女性が、内心では、夫ではなく、自分の名字を子供が名乗ってもいいじゃないか、とは考えています。

フランス人男性は、結婚していようがいまいが、子供は父親の名字を名乗るべきだと考えます。

既婚のフランス人女性も同様に、自分も子供も夫の名字を名乗るべきと考えています。

一方離婚したフランス人女性の場合、子供には自分の名字、もしくは自分の名字と元夫の名字を両方名乗らせたいと考えています。

とりわけ一度離婚して再婚したフランス人女性は、子供が父母二人の名字を合わせ持つことを強く望んでいます。

法律が改正された結果、結婚後も自分の名字を子供に名乗らせることを選択したフランス人女性の場合でも、子供は母親の名字のみではなく、父母両方の名字をハイフンでつなげて名乗るべきでだ、と考えています。

また妻が自分ではなく妻自身の名字を名乗り続けることを受け入れたフランス人男性においては、そうでないフランス人男性よりも、子供が父母両方の名字を名乗ることに賛成する比率が増えます。

今後フランス人女性と苗字の関係は変わるかもしれない

ここではフランス女性の結婚後の苗字に対する習慣、考え方について見てきました。

結論としては、大変に保守的です。既婚のフランス人女性は日本人女性と同様、夫の名前を名乗ることを当たり前と考えています。

フランスには養子縁組などのシステムがない、という意味では、この傾向は日本以上と言えます。

フランスは離婚率の高いお国柄です。フランス人女性が離婚した場合、子供は通常夫の苗字を名乗李続けるために、彼女たちも元夫の苗字を名乗り続けたいと考えます。

それは母親として、離婚後子供と違う苗字になることが何よりも嫌だからです。

それでも離婚を経験したフランス人女性を中心に、子供は母親の名字を名乗ってもいいのではないか、と考える人が増えています。

民法が改正されて子供が母親の名字を名乗れるようになったこと、結婚率が減少する一方で離婚率が増えたこと、男女平等が進んだことなどの理由が挙げられます。

その結果、今後フランス人の苗字に対する考え方は今後変わっていくことが考えられます。

 

参考資料

Marie-France Valetas, Le nom des femmes mariées en Europe, in La documentation française,

2009年12月1日