常識的に考えて、議会というのは国政が執り行われる神聖な場です。
フランスでは最近、議会でフランス人男性議員が女性議員に対して性的発言を発した結果、議会におけるセクハラが社会問題に発展しました。
今回はフランス人男性の国民議会議員が女性議員に発したありえない性的発言についてご紹介しましょう。
フランスにおける議会の誕生
フランスの議会制度が歴史的に誕生したのは、フランス革命のことでした。
1789年当初フランスでは国王による圧政(いわゆる絶対王政)が続いており、もう300年ほど国民の代表が国政に直接関与できない状態が続いていました。
世界史の教科書を紐解くと「絶対王政」というのは民主主義の前段階として、王様の専制という好ましからざるイメージが先行します。
しかしながら、16世紀以後フランスに絶対王政が成立し始めた当初、フランス王国はヨーロッパ一進んだ政治モデルとして高い賞賛を受けたのです。
なぜならフランスの絶対王政は常備軍や官僚機構を兼ね備えて、近代国家の雛形的側面があったからです。また税金の支払いを通じて国民と政府の間に具体的なつながりも生まれました。
しかしその後の度重なる戦争、とりわけアメリカの独立戦争への参戦、飢饉を契機として、フランス革命前夜のフランス王政は財政的に緊迫していきました。
硬直化を打開するため、ルイ16世はついに身分制に基づいた代表者会議を招集することを決心します。
こうして1789年5月以降開催された三部会は投票のあり方をめぐって炸裂しました。
代表者の頭数で計算すれば平民に有利だったのですが、身分ごとに投票をカウントすると特権階級に有利でした。
その時に第三身分(平民)の代表と特権身分の一部のメンバーがテニスコートに集まり、自分たちこそ国民の代表であることを自認し、国民議会が制度化されるまで解散しないことを誓いました。
その結果、国民議会が誕生します。これが現在のフランスにおける議会制度の歴史的起源となりました。
フランス国民議会についてのフランス人の様々な考え方
それから200年以上のフランスの歴史で、議会をめぐる複数の政治モデルが入れ替わり、立ち替わり変化しました。
ある時には革命、ある時にはクーデタ、ある時には暴動によって、既存の政体が倒れ、新しい政体が誕生しました。
恐怖政治、二度の帝政、第二次世界大戦のドイツによる占領下に成立したヴィシー政権などの時代には、議会は事実上機能不全に陥りました。
現在の第五共和政は大統領の権限が強く議会の力が弱い政治体制として知られています。その成立過程においては、議会を重視する多くの人が反対の意を唱えました。
このようにフランスでは議会がどうあるべきか、というテーマについてフランスでは多種多様な考え方が存在する、というのが実情です。
強力な議会制度に賛成するフランス人もいれば、議員を介さずに、国民投票を主体として大統領と国民の直接のコミュニケーションを望むフランス人もいます。
また欧州連合などが国民議会を超えて機能していることに反発を覚えるフランス人もいます。
近年政治的勢力を強める極右派が欧州連合を嫌っているのはよく知られています。
それなのに、フランス革命以来フランスの国民議会についてまわる不変なイメージがあります。それは議会が男性の場である、というものです。
パリテ法でも変化しない議会のマッチョなイメージ
フランス革命は女性を排除して、男性市民のみによって構成される民主主義制度を確立させました。
フランス語でhommeというのは人間、男性どちらも意味します。したがって人権宣言というのも事実上、男性の権利について規定したものでした。
それから100年以上もの間フランス人女性は政治の分野から完全に排除され続けました。
フランス人女性が投票権を得たのは、日本女性が投票権を得た1945年から1年早い1944年のことでした。
フランスでは日本よりも100年も早くから政治の民主化がスタートしたのに、フランス人女性の参政権が成立したのが日本とほぼ同じだったのです。
フランスの近代政治がどれだけマッチョなものだった、ということが理解されるのではないでしょうか。
そう、そのような状況に風穴を明けたのが「パリテ」でした。
「パリテ」(parité)とは同等、同一を意味するフランス語です。
2000年に通称パリテ法が制定され、男女の政治参画の平等化が促進されました。
「比例候補者名簿の記載順を男女交互にする」「政党からの候補者を男女同数にする」
これらの手段を通じて、議員の男女比率を同率にすることを目指しています。
パリテ法の結果、現在フランス国民議会では女性議員の割合は全体の40パーセントを占めるほど、女性議員の数が増えました。
それなのに、です。それなのに、フランス国民議会では男性議員による女性議員に対する性的発言、いわゆるセクハラが後を絶ちません。
わたしは、夏用のワンピースを着ただけなのに・・・・
フランス人男性議員のセクハラに耐えかねた女性議員のセシル・デュフロさんは、you tubeで女性議員として自分に降りかかった災難について告白しました。
以下彼女の言葉をそのまま紹介します。
わたしの名前はセシル・デュフロです。わたしは42歳です。
わたしは国会議員で、4人の子を持つ母です。パリの11区に住んでいます。
私の話は単純極まりないものです。
内閣の閣議が開かれた最初の日にジーンズを履いて出席したところ、非難を受けてしまいました。それで「問題が起こらないように」ワンピースを買いました。
今度はこのワンピースを着て国民議会で発言しようとしました。そうしたら最初の質問をしようとした時、わたしがまだ話し始めてすらいないのに、男性議員たちから性的発言が飛んできました。
事件が起きたとき、わたしは即座に何が起きたのか理解できませんでした。
「(ジーンズからワンピースに替えた後は)行け行けー、(次は)ボタンをはずせ!」
わたしは誰がこれを言ったのか知っています。
問題はその時の議会の雰囲気です。こうしたセクハラまがいの言葉と奇妙にマッチしており、セクハラの言葉がその場にいる他のフランス人男性の議員に自然に受け入れられていたました。
そして複数のフランス人男性議員が続いて、性的発言を飛ばしました。
その後性的発言を飛ばした男性議員たちはさらにわたしのことを次のように告発したのです。
「自分の意見から注意をそらせるために、わたしがこの夏用のワンピースを着たと・・・」
このような言葉をテレビカメラに向かって「しらっ」と言えるフランス人男性議員が存在する、というのは、わたしにはにわかに信じられません。
私個人としては、この事件を封印してしまいたい、と思いました。
しかしその後大騒ぎになってしまったため、わたしは覚悟を決めて公の場で話すことを決心しました。
国民議会における男尊女卑の傾向は続いており、マッチョな傾向は自然にはなくなりません。
男尊女卑の傾向は今でも厳然とフランス社会に存続しています。
この問題は、もはや私個人の問題ではなく、なってしまいました。すべての女性の問題です。
(you tubeでは途中フランス国民議会で性的発言が飛ばされたときの様子を見ることができます)
日本の都議会でのセクハラ発言と比較すると・・・
フランスの国民議会におけるセクハラ発言は、日本人にとっても他人事ではありません。
最近、日本でも都議会でセクハラ発言がありました。
塩村都議会議員が小さな子供を持つ母親に対する支援や不妊の問題について訴えたところ、男性議員より数々のセクハラ発言が飛びました。
「早く結婚した方がいいんじゃないか」「自分が産んでから」「がんばれよ」「動揺しちゃったじゃねいか」「いやー先生の努力次第」「やる気があればできる」
日本女性の議員の半数以上は日常茶飯事でセクハラにあっている、というアンケート結果も出ています。
セクハラの揶揄の内容がフランスと日本では異なります。フランス人男性議員はおもむろに性的なことを匂わせ、日本人男性議員は結婚していない女性を揶揄しています。
しかし日本もフランスも議会という場は相当にマッチョな場である、という事実には変わりがありません。