大ヒットした映画「アメリ」を見ていると、アメリが微妙に相手の外見を見て自分好みかそうでないかを瞬時に見極めているシーンが出てきます。これは「フランス的な恋愛」を象徴した態度です。
「フランス的恋愛」においては、一般に外見から入ってそのあとで中身へと進んでいきます。
日本人男性が「おしとやかな女性」「ついてきてくれるタイプの女性」などというのと対照的にフランス人男性は髪の色、目の色、肌の色などで自分の好みの異性のタイプについて説明するのが一般的です。
ではフランス人男性が恋愛や結婚する時、女性の年齢についてはどう考えているのでしょうか。一概には言えませんが、フランスでは年齢は性格、個性や外見などの最重要条件の後に来るようです。
もちろんフランスにも若い女性を好むフランス人男性はたくさんいることでしょう。ジョニー・デップと別れてしまったヴァネッサ・パラディですが、彼女は10代のころ廃退的なセクシーさを全面に押し出した「フレンチ・ロリータ」的魅力を全開させて、フランスの国民的歌手に上り詰めました。
フランス語には日本語の「姉さん女房」に当たる言葉はありません。でもフランスにも「フレンチ・ロリータ」の対極にある姉さん女房もいます。「姉さん女房」に当たる言葉がないというのは、フランス人が日本ほど逆「年の差」婚について意識しないから、とも考えられます。
人の個性を重んじるフランスでは、一般に人を年齢によって判断することを良しとしません。
ブリジット・マクロンさんのインタビューから
逆「年の差」婚でまず思い浮かぶのは、エマニュエル・マクロンフランス大統領です。
マクロン大統領の夫人ブリジット・マクロンさんは、マクロン氏の高校時代の演劇の先生でした。一緒に演劇の脚本を書いたことから、先生と生徒の間を超えて恋愛が生まれたそうです。
その時ブリジットさんは39歳、既婚、そして三人の母親でした。二人の恋愛は最初の頃は、もちろん不倫でした。
その後恋愛関係が深まると、ブリジットさんは家族を捨てて、大学へ進学したマクロン氏を追ってパリにやってきました。出会いから14年間後、マクロン氏は29歳の時に、それまでの恋愛関係を結実させて、53歳のブリジットさんと逆「年の差」婚を果たしました。
ブリジットさんは最近の雑誌インタビューで、マクロン氏との逆「年の差」婚についてユーモアを交えて、次のように答えています。
「私は社会的常識よりも自分の個人的幸福を優先させました。」「人生において思い切った決断をしなければならないことがありますが、この結婚は私にとってまさしくそのようなきっかけでした。結婚して20年もの間後ろ指を刺されましたが、気にしません。一緒に朝食を食べる時、私にはシワがあり、彼は若いですが、それだけのことです。」(Elle France)
このインタビューから、マクロン氏だけではなく、と言うよりも彼以上に、ブリジットさんにとってこそこの逆「年の差」婚は勇気ある決断だったことが伺われます。それまで築いた家族を捨て、40歳前後で20才以上も年下の自分の教え子の恋人となったわけですから。
またパートナーの愛を信じることができたとしても、周囲からは結婚する前も後も常に好奇の目で見られてしまうという状況は変わりません。そのような状況でも恋愛や結婚を貫くために、彼女自身が強くなくてはなりません。
その意味でブリジットさんには人に流されない、並外れて強い自己が備わっているのは間違いありません。この女性らしい外見を忘れず、独立したマインドを持ち,自分の個性を持っているというのが、フランス人男性が求める理想の女性像かもしれません。
現代フランスのカップルの年齢差
マクロン大統領の例を紹介しましたが、このような形の逆「年の差」婚は現代フランスと言えども超例外的な結婚です。
今日でも、フランス人男性が女性よりも年上のカップルは全体の56パーセントです。つまり半数以上のカップルは男性の方が女性よりも年上ないわゆる「年の差」婚です。平均すると、フランス人男性はフランス人女性よりも2歳半年上です。
30パーセントのカップルは同年のカップルです。女性が男性よりも年上の逆「年の差」婚は残りの14パーセントを占めます。逆「年の差」婚と言っても、その大半は年の差が2歳から5歳程度にすぎません。
6歳から10歳の年齢差の逆「年の差」婚は2.7パーセント、10歳以上逆「年の差」婚は1パーセントにすぎません。
つまりフランスの100組に1組が10歳以上の年の離れた逆「年の差」婚ということになります。
フランス人男性と逆「年の差」婚
女性が自分より若い男性を、もしくは男性が年上の女性をパートナーに選ぶ際、そこには様々な要因が影響しています。それは人口の動きと連動することもあります。
20世紀には二度の世界大戦がありましたが、この時多くの成人男性が亡くなりました。その結果フランス人女性は戦後、同じ年齢か自分よりも若い年齢の男性をパートナーに選ぶ傾向がありました。
現在フランスでは、世代が若くなるにつれて、逆「年の差」婚の割合が増加します。
1960年代には10パーセントの逆「年の差」婚がありましたが、2000年代になるとその割合は16パーセントにまで上昇しました。また逆「年の差」婚のカップルの平均的な年齢差も3歳から4.4歳へと上昇しました。
戦後に女性が社会進出したことが逆「年の差」婚を促進しました。働くことによって男性と同等、もしくはそれ以上のパワーを得た女性たちは、以前よりも年齢を気にしないでパートナーの男性を選ぶようになりました。
しかしフランス人女性の学歴が高くなるにつれ、逆「年の差」婚も増えるという統計結果はありません。一般に日本でもフランスでも男性は自分よりも学歴の高い女性を好みません。
しかしフランスでは学歴が高くなるにつれて、男性の方が女性よりも年上という傾向自体は弱まりを見せます。大卒ではないフランス人男性の62パーセントが年下の女性を選びますが、大卒のフランス人男性の場合、この割合は49パーセントに減少します。
これは出会いの場が影響していると考えられます。
学歴が高い人は学生時代にパートナーと出会う確率が高く、そのためカップルの間の年齢差が縮まる傾向があるからです。
最後にカップルの一人が移民だった場合も(移民とは外国籍を持って外国で生まれた人、その国籍は問わない)カップルの大半は男性が女性よりも年上の年の差婚となります。
先ほどフランス人男性の55パーセントが男性が年上の逆「年の差」婚カップルだと書きましたが、移民のカップルではこの割合が62パーセントに、二人とも移民の場合にはその割合は71パーセントにまで上昇します。
北アフリカ、アフリカ出身の移民同士のカップルになると、男女間の平均の年の差は7歳となります。ちなみに移民のカップルはフランス人カップルに比べ平均収入も低くなります。
つまり世帯収入が低い場合、逆「年の差」婚は急激に減少します。
一般に収入、生活水準が高くなれば、人は日常生活以上のことを考えるようになります。そして恋愛感情を重視した結婚生活を考え、社会的規範から見ればとんでもない、と思えるようなカップルが誕生すると考えられます。
以上のことから,年の差が大きい逆「年の差」婚というのはある意味、生活に余裕のあるカップルにしかありえません。マクロン大統領(24歳差)、ナポレオン(6歳差)はその際たる例です。彼らは絶大な政治的権力を持ちつつ、私生活においては年齢を気にしないで純粋に愛する女性と結婚したのです。
逆「年の差」婚のメリット
日本ではメディアで逆「年の差」婚のメリットについて、などの記事は見かけません。日本でも女性が年上の逆「年の差」婚がないわけではありませんが、少なくとも日本人男性が積極的にこうした記事を書くとは思えません。
フランスの歴史を紐解くと、元来年上の女性をパートナーとする、つまり逆「年の差」婚がそれほどタブーなことではありませんでした。
今日でも、日本同様フランスにも逆「年の差」婚は存在します。ただこのテーマをわざわざ話題にするほどの社会的寛容性がフランスにあったわけではありません。
フランス社会において、逆「年の差」婚を厭わない男性は同性愛者の置かれた立場と似ているようです。最近フランスでは同性愛が受け入れられるようになるとともに同性婚が合法化されました。
それと同じようにネット上では年上の女性と恋愛するのが好きフランス人男性がカミングアウトするという傾向も珍しいものではなくなりつつあります。
逆「年の差」婚を好むフランス人男性にとって、周囲の目が最も大きな障害になるそうです。家族の行き来が日本よりも頻繁で、食事などを一緒にする習慣が根強いフランスでは、家族に年の差が開いた年上の女性をパートナーとして紹介することにはまだまだ抵抗があるようです。また職場の人にも言いにくいとの声もあります。
それでも年上好きのフランス人男性は以下の10の理由から逆「年の差」婚のメリットを挙げています。
- 精神的に安定していて、物事を俯瞰した立場から眺めることができる
- 自立している
- 男性のニーズと欲求がよくわかっている
- カップルの間のコミュニケーションにも学習が必要だが、その辺をよくわきまえており相手が嫌がるようなことを話題にせず、言葉を選んで話すことができる
- 豊かな経験を持っている。特にカップルがうまく行くための状況、感情の入れ込み方、相手に対する小さな配慮についてよくわきまえている。
- 財政的にも共同生活をうまく切り盛りすることができる。
- 若い女性よりも化粧が薄く自然体。それは自分自身の魅力をよくわかっており自信があるから。
- これまでに様々なカップルの経験をしているために無駄足を取らない。若い女性のようにわがままではないので男性の方でも時間を無駄にしなくても済む。
- 自分が年上であることを意識して果てしない夫婦喧嘩などを避けようとする。限られた時間を意識してその一瞬一瞬を楽しむことができる。
- フランスで若い女性とカップルになった時には女性の方がすぐには子供を欲しがらずキャリアを優先させることが多い。しかし年上の女性ならすぐに子供を産もうと賛成してくれる。
などなど。
この10の条件から見えてくることは、逆「年の差」婚を厭わないフランス人男性とは、真摯に充実したカップル生活を送りたいと望んでいることです。そして当然のことながら、彼らは外見、年齢ではなく、女性の経験、個性こそを重視します。
逆に言えば、逆「年の差」婚を選ぶフランス人男性には、相手を育てていこうというところがない、とも受け取れます。そこには自分が上になって相手を包み込むというよりも包み込まれたいという欲望が見え隠れします。
また最後に「すぐ子供が欲しい」とのリクエストが挙げられていますが、これは言外に「子供の産めないほどの年上の女性は求めていない」と言っていると解してもいいでしょう。
逆「年の差」婚が珍しくなくなりつつある現代フランスですが、マクロン大統領ほど相手への愛に殉じた逆「年の差」婚というのはかなり珍しい、と言えます。
おわりに
ここでは現代フランスにおける逆「年の差」婚の実態、そして逆「年の差」婚を好む(?)フランス人男性の声を紹介しました。
一般に、フランス人男性がパートナーを選ぶ際に、女性の年齢は最重要条件ではありません。そうではありませんが、逆「年の差」婚が一般的なカップルの在り方でもありません。
特に大学に行かずに働き始めたフランス人男性や移民の間では男性が年上である、いわゆる通常の年の差婚が一般的です。
ところが大学を出た人、もしくはそれ以上の学歴のフランス人にとっては、年齢差は相対的にさほど重視されなくなります。彼らはカップルとして生活の質、とりわけ充実した会話を求めて恋愛、結婚をします。彼らの多くは大学時代の恋人と結婚することが多いので、カップル間の年齢差は縮まります。
自分で人生を切り開いていけるような野心的なフランス人男性は様々な苦難を乗り越えてきているため、実際の年齢以上に人間的に成熟しているものです。そのような個性に見合った女性を探すとなると、必然的に年上の女性となりやすいのかもしれません。
女性も30歳を過ぎるとそれまで考えていなかったようなパートナーの選択が可能となり、年下の男性との逆「年の差」婚も視野に入ってきます。以前フランスで一人の女性が10歳年下のボーイフレンドができた途端、その周囲の同じような年齢の独身女性が数人バタバタと年下のフランス人男性と結婚したことがありました。
女性も自分が相手の男性よりも年上であることについて萎縮せずに、それを経験、個性、成熟と捉えることができれば、恋愛や結婚の可能性がぐーんと広がるのがフランスです。そういう意味では女性が死ぬまで女性として生き続けていくことができる社会です。