恋愛が始まって、二人で愛の日々を重ねた後、めでたく婚約、結婚となります。その時一生に一度(一応その時は・・・)のイベントに備え、愛の証として男性から女性に送られるのが婚約指輪、そしてペアで揃えるのが結婚指輪です。
この二つの指輪についてのフランス人男性、フランス人女性の考え方について日本人と比較しながら紹介します。
婚約指輪については日本とフランスでそんなに大きな考え方の違いがありません。結婚指輪に関しては、日本よりもフランスのカップルの方が断然結婚指輪を重視します。
その背後には、日本とフランスの宗教の違いがあります。敬虔なカトリック教徒とは言えない今日のフランス人ですが、結婚指輪をはめる時には、古くからのキリスト教の伝統が蘇るようです。
日本は婚約、結婚に対してミニマリストになっている?
日本の若い世代の間では、最近婚約、結婚といった儀式に対して、あまりこだわりがなくなっています。「ナシ婚」と呼ばれる入籍はするけど「結婚式をあげない」スタイルも増えています。
また結婚した後、日本人カップルが軽視しがちなのが結婚指輪です。なんと結婚しているカップルの7割は結婚指輪をつけない、というアンケート結果もあるそうです。
それによれば、50代以降の既婚カップルで結婚指輪をつけない人は80パーセントに及ぶそう。さらに20代の既婚カップルで結婚指輪をつけない人は30パーセントに上っています。
その典型的な例が最近結婚された小林摩耶さんではないでしょうか。彼女は今の所披露宴は行わず、婚約指輪にもあまり予算をかけているようには見えません。ではなぜ既婚の日本人カップルは結婚指輪をつけない傾向があるのでしょうか。
アンケートによれば「仕事上好ましくない」「気がついたら無くなっていたがもう買うお金がない」「結婚指輪は宝石会社が儲けるものだから必要ない」「太ってつけられなくなった」などの体裁的理由が挙げられています。
でも本音は(特に年季のいった夫婦にとっては)次の言葉に集約されているのではないでしょうか。「もううん10年と結婚しているのだから、もう結婚指輪をする間柄でもない。」
それにしても新婚夫婦にとっては「相手のことをそんなに好きではない」から結婚指輪をつけない、ということは考えられません。それなのに「面倒臭いから」「慣れていないから」結婚指輪をつけない人が多いそうです。
また若い人の中でも、世間的には独身風情で通したいとの気持ちもあるそうです。その背後にどのような動機があるのかはここでは問わないこととしますが・・・・。
概して日本人の既婚カップルが結婚指輪をつけなくなった、というのは、昨今の日本人が結婚するという行為にマジックや神秘性を感じていないからなのではないでしょうか。
私たち日本人はどちらかといえば現世の共同生活、ということを重視して結婚をする傾向があるように思います。
そのことを一番感じるのは昨今の終末婚です。年齢のいった、もう終活を始めるような年頃の人が、「これから死ぬことを考えると・・・」と言って結婚するのを耳にすることがあります。
彼らは、介護などの具体的な問題を含めて、一人で死ぬのが嫌だから結婚することが多い気がします。また相手を介護するのが嫌で結婚をしない選択をする女性もいる、というのも現世の共同生活を第一に考えるという意味では、同じスタンスです。
今時の日本人と結婚指輪
この時流に乗って登場したのが、24時間いつでも結婚指輪を購入できる自動販売機です。オンラインでなくとも、店にいかなくとも、とにかく忙しい人がいつでも結婚指輪を買いに来れるように、というコンセプトだそうです。
この自動販売機の目玉は「名のなき指輪」シリーズで、リング、ハンマー、芯棒などが入った手作りキット。カップル向けペアリングから結婚指輪まで様々な素材、価格帯のものがあります。
カップルはカンカンと自分でハンマーで叩いて、世界で一つしかない指輪を作るというもの。バブル時代のブランド志向とは真逆の、ミニマリズム。自分たちしか持っていない、唯一無二の指輪を作るんだから、その材料を自販機で買うのは問題ない、という発想なのかもしれません。
このスタイルは若い「さとり」世代と言われている世代独自の感覚かもしれません。また元来宗教色が強くない日本人の国民性にも適合しています。
24時間のコンビニがあるのだから、24時間の結婚指輪の販売があってもおかしくない、ということかもしれません。ちなみにフランスでは泥棒が多いため、自販機が置いてありません。
いくら日本人の結婚観が世俗化されたものであっても、婚約指輪となると話は別です。普通女性は自動販売機で購入した婚約指輪を送られて嬉しい、とは感じないものではないでしょうか。
若い未婚の日本人女性たちは、特定の男性がいるかいなかにかかわらず、ある日愛する男性から高価な婚約指輪を贈られる日を夢見て生きています。一方婚約指輪をもらった既婚女性は結婚式や披露宴などの特別な機会に婚約指輪を持っていてよかった、と思うそうです。
一般に日本人女性にとって結婚指輪よりも婚約指輪の方が重要なようです。しかし肝心の結婚式、披露宴が減少している現在、婚約指輪をつける機会も今後必然的に減っていくことが予想されます。そうすると将来的には婚約指輪も結婚指輪のような運命を辿るのかもしれません。
フランス人と結婚指輪
一般的な話として、フランス人と比べ日本人は結婚を決意するまでに、そこまで時間をかけません。自分たちがカップルとしてやっていけるかいけないか見極めるのに2,3年同棲するカップルがいたらそれは長い方ではないでしょうか。
フランスでは、一度一人の相手にコミットしてから結婚までの道のりが長い上、その愛にコミットはしても結婚はしない、という結果もあり得ます。そうはいってもその段階を超えて結婚までいったカップルというのは、最も揺るぎない関係と言えます。
一般的に言って、フランスでは既婚のカップルが結婚指輪をつけないという選択はありえません。それはまず宗教的背景が異なるからです。
キリスト教の伝統があるフランスでは、いまでも結婚指輪にある種の神聖さが宿っています。男女間の結婚というのは、キリスト教にとっては結合(alliance)を意味します。
神が教会と結合関係を結んでいるのと同じように、男女も結合関係を交わし、死ぬまで二人が別れないと誓います。それを象徴するのがペアの結婚指輪です。
キリスト教によれば、結婚には自由に相手を選ぶ、別れない、浮気をしない、子供を産む、という4つの条件があります。結婚というのは神聖なもので、二人の男女が一つになる神聖な行為とみなされます。そして神前で、一生愛し合うこと、尊重し合うこと、日常の生活が困難であろうとも結婚関係を解消しない、ことを誓います。
結婚という行為が、教会で神様に永遠の愛を誓う、というものである以上、結婚指輪にも神の加護が宿っているのです。ですから結婚指輪に傷がついた、ちょっと古くなったから、などの理由で結婚指輪を新しく買い直すとことはできません。
またフランスでは結婚指輪をしている、していない、というのは重要な社会的ステータスの指標となっています。結婚指輪をしていることによって、少なくとも真面目な恋愛をしようと思って言い寄ってくる人の数は激減します。
もし結婚指輪を外した既婚男性がいたら、パートナーの女性から「浮気をしたいのかな」と疑われてしまうことでしょう。
そんなフランス人から見ると、既婚の日本人カップルが結婚指輪をしない、というのは結婚を神聖なもの、マジックなものと見ていない表れ、と映るようです。また日本人はそのようなことを意識していないにしても、それは別の人との関係が始まってしまっても構わない、ことを社会的にアピールしているようにも見られてしまいます。
今日フランス人の多くは敬虔なクリスチャンではありません。そうであるのにも関わらず、長い宗教的伝統が息づいているのが結婚です。フランス人にとっては、今日でも結婚指輪には特別な価値があり、それをつけないという選択肢はありえません。
この宗教的伝統が重すぎて結婚をしない人がいる、といっても過言ではありません。
フランス人と婚約指輪
では婚約指輪についてフランス人はどのように考えているのでしょうか。ここで婚約指輪の歴史的由来を手短いに振り返ってみましょう。
婚約指輪の歴史的起源はエジプト、もしくはそれ以前にさかのぼると言われていますが、婚約指輪の風習が正確にいつ始まったのかについてはわかっていません。確実なのは、ギリシャ、ローマ時代にすでにヨーロッパには婚約指輪が存在していた、ということです。
この頃、シンプルな鉄の輪を左手の薬指につける習慣が生まれました。当時の人々は迷信によって、左手の薬指が心臓、つまりハートと直接的に血脈によってつながっていると考えていました。
中世に入ると、婚約指輪は、鉄製からシルバー、ブロンズ製へと変化しました。また宝石なども加えるようになりました。ダイヤなどの貴金属が婚約指輪に使われるようになったのは15世紀ごろのことでした。
その結果、指輪の細工は次第に手の込んだものとなっていきました。当時ダイヤは夫婦関係の調和を意味していましたが、ダイヤを持つのは貴族階級に限定されていました。
16 世紀に入るとヨーロッパ社会は大きく変わっていきました。中世が終焉し、現在の国を単位とした社会の雛形が誕生しつつありました。ヨーロッパ人は世界各地へと拡大し、貿易によって豊かになっていきました。
しかしながら当時はまだ身分制社会が支配していました。宝石などの高価な品は社会的身分を表象するもの、と考えられていたために、当時の商人はいくらお金を持っていても、ダイヤを身につけることはできなかったのです。
女性が望む婚約指輪
幸いなことに、現在日本でもフランスでも、私たちは自分が好む婚約指輪を選ぶことができます。ではフランス人女性はどんな婚約指輪を好むのでしょうか。
最近貴金属会社が行ったアンケートによれば(Vashi.fr)、フランスで人気の婚約指輪の型はダイヤモンドの一粒型です。これはヨーロッパでは中世以来の伝統でありますが、現代フランス女性は、アメリカ発のロマンチックな映画、ドラマの影響を受けてこのタイプの指輪が好みなんだそうです。
あるアンケートによれば、50パーセント以上のフランス人女性が一粒ダイヤを欲しい、と答えています。また70パーセントのフランス人女性は、一粒ダイヤの周囲には小さいダイヤが埋め込まれたものが良い、と答えています。
ただ一粒ダイヤについては、サイズよりも質にこだわる傾向が強く、56パーセントのフランス人女性はカラット数が大事とも答えています。宝石の形はそれをつけるフランス人女性の年齢によって変化します。
また婚約指輪の好みは国によっても異なります。イギリス人女性ははビンテージ風のデザインの婚約指輪を好みますが、多くのフランス人女性はコンテンポラリーデザインを好みます。また45歳を過ぎたフランス人女性は長方形のダイヤを好むとか。
日本の女性の75パーセントはダイヤの婚約指輪が欲しいと答えており、ダイヤモンドへの憧れはフランス以上です。日本の傾向は、広告、マーケティングの影響とも考えられます。
日本人女性もフランス人女性同様に「素材」が大事と考え、「劣化や偏食がなく」「永遠の輝きがあること」を重視します。また大半の日本人女性は一粒ダイヤモンドとプラチナの婚約指輪を求め、周りにダイヤが埋め込まれているかどうかについてはこだわっていません。
ただ最近若い日本人女性は一粒ダイヤモンドとは一風異なる婚約指輪を欲しがるケースも増えているそうです。彼女たちはセンターにボリュームのあるファッション性の高いデザインを好む傾向があるそうです。
婚約指輪に使われる宝石に込められた意味
フランスではダイヤ以外の石も婚約指輪として使われます。ここではメジャーな石に込められた意味合いについてご紹介します。
ダイヤモンド
ダイヤモンドは、純粋さ、永遠さの象徴です。ダイヤモンドのメリットとしては、どんな洋服、他の宝石ともマッチするところです。色のついた貴金属だとそういうわけには行きません。
ダイヤモンドの質は4つの基準(サイズ、重さ、純度、色、これらを合わせてカラットと呼ぶ)によって測定します。
サファイヤ
美しい青が際立つサファイヤは、忠誠心、豊饒さを象徴します。ダイヤと並んで、サファイヤも世界で最も人気のある石として知られています。
フランスではサファイヤを使った婚約指輪の人気が近年高まっています。それはイギリスのウイリアム王子がケート・ミドルトン王妃への婚約指輪として、ダイヤモンドが周りに散りばめられた18カラットの目がくらむようなサファイヤの指輪をプレゼントしたからです。
この指輪はもともとダイアナ元王妃の婚約指輪でした。時価660万円ほどのものです。ダイアナ元王妃の婚約指輪は当時物議を醸し出したそうです。それはこの指輪がオーダーメイドではなく、宝飾店のカタログに掲載されており、誰でも買えるものだったからだそうです。そのためこの指輪はイギリスの上流階級からは不評でした。
それでもダイアナ元王妃が気に入ったためこれが彼女の婚約指輪となりました。このようなところがダイアナ元王妃が庶民から人気があった秘密かもしれません。そして今日でもこの指輪を注文することができます。
サファイヤの指輪の値段はその色によります。青色の鮮度が高いほど、サファイヤの値段も高くなります。
エメラルド
エメラルドは豊穣と希望のシンボルです。緑色を好む人に人気の意思です。エメラルドは宝石の中では最も脆弱なものです。ショックに耐えるために、形はラウンドではなく、オバールで細長くなっています。
ルビー
ルビーは幸福と情熱を意味します。ヨーロッパにおいてルビーとは権力の象徴として知られてきました。ルビーは最も珍しい石の一つで、他の石よりも相対的に値段が高価です。
これがフランスで一般的な婚約指輪の実寸です。なかなかボリュームがあり、一般的に日本人が考える婚約指輪よりも大きいことがわかります。フランス人女性にとっての婚約指輪の重要性が伝わってきます。
ではフランスでは婚約指輪にどのような金属を使うのでしょうか。フランス人女性は、一般にイエローゴールド、ホワイトゴールド、プラチナから選びます。
相手の女性にサプライズで婚約指輪を送ろうと考えるフランス人男性は、以下の手順で婚約指輪の金属を選ぶそうです。
まず相手の女性がすでに持っている指輪を観察して、イエロー系かシルバー系か見極める。それによって、その女性がどちらの色が好みなのかがわかります。
もし相手の女性がイエローゴールド系の指輪を持っている場合は、イエローゴールドにする。反対にシルバー系の指輪を持っていた場合には、ホワイトゴールドかプラチナかを選ばなければなりません。
ホワイトゴールドとプラチナは以下の次の3つの点で異なります。
ホワイトゴールドは全く自然のものとは言えません。それは75%のイエローゴールドと25%の金、ネッケル、鉛でできています。比べてプラチナは95パーセント純粋なプラチナです。貴金属としての純粋さにおいては、プラチナが金に勝ります。
またホワイトゴールドは75パーセントのイエローゴールドでできているため、数年経つと金属がくすんできます。白さを維持するためには、数年ごとにお手入れをしなくてはなりません。酸化、シルバーの光を保つのにはプラチナの方が有利です。なぜならもともとの色がシルバーなので、経年劣化がありません。
プラチナの濃度が金以上ということは、プラチナの方が引っ掛け傷などにも強い、と言えます。デメリットはプラチナの方が希少なため、値段が上がります。金に比べると30から40パーセント高くなります。
ちなみに日本人女性の大多数はプラチナを好みます。
最後に婚約指輪の予算について。これは日本でもフランスでもプレゼントする男性にとっては一番大きな問題です。では彼らは婚約指輪の予算にいくらかけるのでしょうか。
婚約指輪の値段は、石、指輪に使う金属の種類、自分の予算と相談して選ぶしかありません。
そして指輪の型によって異なってきます。できるだけ高いものを買う、というのではなく、相手の期待に沿ったものである必要があります。
フランス男性の婚約指輪にかける予算は、平均で1ヶ月か2ヶ月の給料に相当するとされます。日本の平均は男性側の給料の1ヶ月相当です。平均して、フランス人男性の方が婚約指輪にかける予算が多いことが理解されます。
終わりに
フランス人の結婚指輪、婚約指輪事情について紹介しました。
日本とフランスでの大きな違いは、結婚指輪です。日本人の新婚カップルは平均でも結婚指輪に24万円かけています。それなのにあとで結婚指輪をつけなくなってしまうというのはなんだかもったいないことに思えます。
結婚したフランス人カップルにとっては、結婚指輪をつけることが原則です。それは愛が神聖なことの証、そして結婚していることを社会に示す指標です。その点では彼らはキリスト教の伝統に忠実でありつづけています。
参考文献
Le journal du marié : Comment choisir une bague de fiançailles ?
先輩花嫁に聞く:婚約指輪と結婚指輪に関する調査:堅実派の今どきカップル、価格は控えめでも素材重視 産経ニュース 2015年5月13日
橋下明彦「自販機で買える結婚指輪」が登場!加速する今どきの「自分たちらしさ」
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